本来、思考と身体は一体のもので、私たちは自然や環境の一部である。それは今も昔も変わらない。しかし、いつしか思考と身体、自然、環境は別のものとして捉えられ、人は知らず知らずのうちに思考と身体を切り分けて考えるようになった。思考と身体の意識は分離しながら世界は発展を遂げてきた。思考による世界の更新は、身体、自然や環境を置き去りにして進められ、世界はバランスを崩して不安定な混沌の中にいる。今、私たちは思考と身体が調和した自然の姿を振り返り、自然の中の一粒子としての我々の振る舞いを捉え直してみる必要がある。
「性質から創造する。」
これは新しい創造の道筋の構築の為の小さな試みである。それは目の前にある、かたち、色、素材、環境(モノ)、素材に適した加工技術や製造技法、世界を構成する medium(媒質)や substance(物質)など、身体を取り巻くあらゆる事象に意識を向け、深い洞察から見出された“性質”を起点にモノを考え、発想し、創造する態度で、思考に偏りすぎた創造の軸を少しだけ強めに身体側に振り戻すことである。周囲の世界への深い洞察の眼差しは環境(モノ)への同化でもあり、その時自分は自然と同期している。その時、思考は身体と同一であり、創造された物の中には思考と身体が一体化した無理のない自然なモノの成り立ちが宿っている。思考による新たな関係性の創出ではなく、思考と身体によって見出された無理のない新たな必然の姿の創造である。その姿は水の流れのように自然で、思考や作り手の意図に偏らない世界との深く美しい関係性が現れる。それは自然の法則に逆らわない環境や性質に相応しい美しい調和の姿である。
これは特別に新しいことではなく、すこし忘れてしまった身体感覚を取り戻すような試みで、バランスが崩れた創造の状態を少し元に戻し、これまで見過ごしてしまっていた環境(モノ)への同調を回復することである。
日常の生活の中で環境と通じ合う身体は様々な調和に包まれる。小さなよろこびや幸せと共にある平和な生活は幸福感を育む。創造が小さく優しく美しい世界をつなぐ。